大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(う)1023号 判決

被告人 吉田泰

〔抄 録〕

ところで、所論は、前述のように前記本位的訴因と予備的訴因との間に公訴事実の同一性がないと主張し、その根拠として、(一)両訴因は同一の日時を掲げるが、両者は同時刻のことではなく、予備的訴因の時刻の方が四〇数秒早い時刻であって、時刻に違いがあり、(二)場所についてはともに「清瀬町元町一丁目一〇番地先」とされているが、本位的訴因の前掲「清瀬駅踏切手前」と、予備的訴因の「交差点」とは二〇メートル近く離れており、(三)具体的状況の摘示においても、本位的訴因は、被告人車が踏切手前において一時停車した際、右後部が道路中央線より右に出て、左斜になった状況を問題としているのに対し、予備的訴因においては、同車が交差点を左折するときの状況を問題としており、(四)被告人の義務懈怠については、本位的訴因においては「トラックの進路を妨げたままの状態で漫然停車をしていた過失により」とされているのに対し、予備的訴因においては「左折前あらかじめ自車の進路をできる限り右にとらないまま左折進行した過失により、左折後同踏切手前で自車後部を道路中心線より右側に出し進行方向に向って左斜となる状態で停止させ」となっていて、本位的訴因においては全く記載されていない停車前の左折進行の際の運転上の注意義務を捕捉している点において両者に根本的な相違がある、との諸点を挙げている。

しかしながら、右両訴因を比較、検討してみると、被告人の過失により発生したという事故の日時、場所、発生状況、被害結果は両者まったく同一であり、右事故の原因をなす過失行為の時刻は概ね一分前後の相違、場所は、前記踏切手前停止線から予備的訴因にいう交差点角まで、弁護人提出の西武自動車株式会社車両課長鈴木淳五作成現場明細図の示すところでは、その距離一四・一メートルの相違である。それに、そもそも被告人は当時、久米川行バスを運転して、その基点である清瀬駅前を出発し、ほぼ西進して原判示交差点に至り、同所を左折して原判示踏切に差しかかりその手前に一時停止し、本件事故を招くに至っているのであって、本位的訴因は、右一連の行為のうち、被告人車が、右停止直後に、折柄対向して原判示踏切を横断して来た大型トラック(戸口敬三運転)の進路を前記のとおり妨げる状況になった際における、被告人の対応方法に、過失を見出しているのに対し、予備的訴因は、右停止時に大型トラックの進路を妨げる状況を作り出した原因となっている。すなわち右一連の行為のうち右停止直前の原判示交差点における被告人の左折方法に、過失を認めているのである。このように、業務上過失致死傷罪の事件において、被告人の事故に至るまでの一連の行為のうち、先ず事故に最も近接すると認められる過失をとらえて、これを起訴状に掲げ、その後訴訟の経過により、右起訴状に掲げられた事実が過失として立証困難と認められるに至った場合に、被告人の右一連の行為のうちさらにその直前における過失と認められる行為をとらえて過失として掲げ、訴因変更の手続に出ることは、要するところ、両者とも、当該事故に至る一連の被告人の行為のうちどの部分を過失としてとらえるかの点において相違しているに過ぎず、その基盤をなす事実関係すなわち当該事故に至る被告人の一連の行為そのものは同一であるから、まさに公訴事実の同一性を害しない限度における訴因の変更(予備的追加)と認めるのが相当である。所論主張の根拠として挙げている前記程度の日時、場所の相違は未だ右同一性を害するものではなく、同じく所論の挙げている具体的状況および被告人の義務懈怠の内容の相違は、寧ろ訴因の追加、変更に随伴する当然の事柄であって、そのために同一性が失われる筋合のものではない。

(吉田 大平 粕谷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!